神託の言葉

語らない神|月読命と、夜にしか出ない答えのこと

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

日本神話には、ほとんど何も語られない神様がいます。

月読命(つくよみのみこと)。

天照大御神、須佐之男命と並ぶ三貴子(さんきし)のひとりでありながら、登場する場面は驚くほど少ない。物語らしい物語が、ほとんど残っていないのです。

けれど私は、その沈黙こそがこの神様の性質なのだと思っています。


月読命とは、どんな神様か

伊邪那岐(いざなぎ)が黄泉の国から戻り、身を清めたとき、右目から生まれたと語られます。左目から生まれた天照大御神が昼を、右目から生まれた月読命が夜を治めることになりました。

司るものは、月。夜。静けさ。そして、潮の満ち引き。

「ツクヨミ」の名は、月を読む、月齢を数えるという意味だとする説があります。時の移ろいを測る神という性格です。


姉と、二度と並ばなくなった話

数少ないエピソードのひとつが、『日本書紀』にあります。

天照大御神の命で、月読命は保食神(うけもちのかみ)のもとを訪ねます。保食神はもてなそうとして、口から食物を出しました。

月読命は、これを穢れとして怒り、保食神を斬ってしまいます。

これを聞いた天照大御神は激しく怒り、「もうお前とは会わない」と告げました。以来、太陽と月は昼と夜に分かれ、二度と同じ空に並ばなくなったといいます。

潔癖さゆえに、大切な関係を失った神様。そう読むこともできます。

けれど別の読み方もできます。分かたれたからこそ、夜という時間が生まれたのだ、と。


なぜ、答えは夜に出るのか

夜に考えごとが深くなる。眠れないまま、同じことを何度も反芻してしまう。

そういう経験のある方は多いと思います。ここには、脳のしくみが関わっています。

何もしていないとき、脳はいちばん働いています

課題に集中しているとき以外、脳ではデフォルトモード・ネットワークと呼ばれる回路が活発になることが知られています。

このネットワークが担うのは、自分について考えること、過去を振り返ること、未来を想像すること。つまり内省です。

日中、やるべきことに追われている間、この回路は後ろに下がっています。手が空き、静けさが訪れたとき——多くの場合それは夜です——ようやく前に出てくる。

**夜に考えごとが増えるのは、心が弱っているからではありません。**ようやく、自分を見る回路が動きはじめただけです。

眠りは、記憶を整理する時間です

もうひとつ。睡眠中、脳は日中の経験を整理し、必要なものを長期記憶へ移していることが分かっています。

このとき、出来事に貼りついていた感情の強さが和らぐ方向に働くとも言われます。「一晩寝たら、少し軽くなっていた」という実感には、根拠があるわけです。

急いで答えを出そうとするより、一度眠ってから決めるほうが、質の高い判断になりやすい。潮が満ちるのを待つように。


語らないことの強さ

月読命が神話にほとんど登場しないことを、私は物足りないとは思いません。

言葉にしない時間には、それ自体の働きがあります。

すぐに答えを出そうとすると、私たちはたいてい、すでに知っていることの中から選びます。既にある引き出しを開けるだけです。

けれど答えが出ないまま置いておくと、脳はその問いを手放しません。日中の別のことをしている間も、夜眠っている間も、水面下で組み替えが続いています。

しばらく経って、ふと腑に落ちる瞬間が来る。あれは、待っていたから起きたことです。

月読命は、そのことを知っている神様なのだと思います。


いま、あなたに置き換えると

急いで結論を出さなくていい日があります。

周りが決めろと言ってくる。自分でも早く楽になりたい。それでも、いまは答えが降りてくる時期ではないのかもしれません。

月は満ちるまでに時間がかかります。欠けている月を見て、失敗だと思う人はいません。満ちる途中だと分かっているからです。

あなたの中で答えが形になっていないのも、同じことかもしれません。

そして、夜に浮かんでくる考えを恐れないでください。

夜に出てくるものは、日中の忙しさに紛れて見えなくなっていた本音であることが多いのです。ただし、夜の思考は暗いほうへ流れやすいという性質もあります。

**浮かんできたことは、そのまま鵜呑みにせず、書き留めて朝もう一度読む。**これだけで、ずいぶん違います。夜のあなたが見つけたものを、朝のあなたが確かめる。二人で決めればいいのです。


この神様が現れたとき

神託引きで月読命が出たなら、それはいまは動く時期ではないという報せです。

止まっていることを、停滞だと思わなくて構いません。潮が引いているだけです。引いた潮は、必ず戻ってきます。

答えは、静けさの中にあります。急がず、満ちるのを待ってください。


月読命とゆかりの深い場所

  • 月讀宮/三重県伊勢市 ― 伊勢神宮 内宮の別宮。月読命をお祀りします
  • 月読神社/京都市西京区 ― 松尾大社の摂社。古くから月の神として信仰されてきました
  • 月山神社/山形県 ― 出羽三山のひとつ、月山の頂に鎮まります

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