神託の言葉

光を隠した神|天照大御神の岩戸隠れと、心が閉じるとき

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

日本神話でいちばん有名な場面を、ひとつ挙げるとすればここでしょう。

太陽の女神が、岩の戸の向こうに隠れてしまう。世界から光が消える。

けれどこの話を「神様の物語」として読むだけでは、少しもったいない気がしています。これは、傷ついた人の心に起きることを、そのまま写し取った話でもあるからです。


天照大御神とは、どんな神様か

天照大御神(あまてらすおおみかみ)は、高天原(たかまがはら)を治める太陽の女神です。伊邪那岐(いざなぎ)が黄泉の国から戻り、身を清めたときに左目から生まれたと語られます。

伊勢神宮の内宮に祀られ、皇室の祖先神とされる、日本神話の中心にいる神様です。

司るものは、光。そして、統べること。正しい道。

けれど、この神様がもっとも人の心を打つのは、その輝きの部分ではありません。光を失った時間のほうです。


岩戸隠れ ― 何が起きたのか

弟の建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)が、高天原で乱暴を働きます。田の畦を壊し、御殿を汚し、機織り場に皮を剥いだ馬を投げ入れた。その衝撃で、機を織っていた女神が命を落とします。

天照大御神は、天岩戸(あまのいわと)に入り、戸を閉ざしました。

世界は闇に包まれます。太陽が隠れたのだから当然です。作物は実らず、災いが次々に起こった、と『古事記』は伝えます。

ここで注目したいのは、天照大御神は怒って隠れたのではないということです。原文が伝えるのは、恐れと、悲しみと、深く傷ついた心です。

自分が悪いわけではないのに、世界から身を引いてしまう。心当たりのある方は、少なくないのではないでしょうか。

実は私も、五十代になってから同じことを経験しました。

職場でパワハラとモラハラに遭い、会社を追われました。何ひとつ悪いことをした覚えはありません。それでも居場所はなくなり、収入も途絶えました。

けれど、いちばん壊れたのは、お金でも肩書きでもありませんでした。精神のほうです。

家から出られなくなりました。外に出ることさえ、できなくなったのです。

玄関まで行くと、足が震えて、吐き気がしました。靴を履くことさえ、できませんでした。

人に会うのが怖くて、買い物は夜遅く、こっそり出かけました。

明るい時間の世界は、もう自分のものではないような気がしていました。

あのころの私に、もし誰かが「そんなことではいけない」と言っていたら、たぶん立ち上がれなかったと思います。

私がこの岩戸の話にこれほど惹かれるのは、天照大御神が閉じこもったことを、この神話が一度も責めていないからです。悪いのはあなたではない、と最初から分かっている。そういう物語なのです。


なぜ、人は岩戸に入るのか

ここから少し、脳のしくみの話をさせてください。スピリチュアルな話と脳の話は、意外なほど同じところを指しています。

閉じこもることは、防御反応です

強いストレスや脅威に触れたとき、脳の**扁桃体(へんとうたい)**という部分が警報を鳴らします。危険を素早く察知する、とても古い機能です。

この警報が鳴り続けると、私たちは危険に近づかないことを学習します。心理学ではこれを回避学習と呼びます。

大事なのは、これが故障ではないということです。むしろ正常な働きです。痛かった場所に、もう一度手を伸ばさない。生き延びるために備わった、まっとうな仕組みです。

天照大御神が岩戸に入ったのも、弱さではありません。傷ついた存在が身を守るために、いちばん確かな方法を選んだのです。

けれど、閉じたままだと世界も暗くなる

やっかいなのは、回避が回避を呼ぶことです。

外に出ない期間が長くなるほど、「外は危険だ」という予測は強まっていきます。実際に危険かどうかを確かめる機会が失われるからです。脳は、更新されない予測を握りしめたままになります。

神話が「世界から光が消えた」と語るのは、まさにこの状態でしょう。隠れているのは光そのものではなく、光が出ていく理由のほうなのです。


岩戸は、どうやって開いたか

ここが、この神話のいちばん美しいところだと思っています。

神々は、扉をこじ開けようとはしませんでした。

思金神(おもいかねのかみ)が策を立てます。長鳴鳥を鳴かせ、鏡と勾玉を用意し、天宇受賣(あめのうずめ)が桶の上で舞う。その舞があまりに愉快で、八百万の神々がどっと笑いました。

その笑い声が、岩戸の内側に届きます。

天照大御神は不思議に思い、戸をわずかに開けて外をのぞきました。そこに差し出された鏡に、まばゆい姿が映る。その一瞬をとらえて、天之手力男(あめのたぢからお)が手を取り、外へ導き出しました。

世界に光が戻ります。

説得ではなく、賑わいだった

注目してほしいのは、誰ひとり「出てきなさい」と言っていないことです。

正論も、説得も、叱責もありません。あったのは、外が楽しそうだという気配だけでした。

これは脳のしくみから見ても、理にかなっています。

扁桃体が警報を鳴らしている状態で、正論は届きません。恐れているときの脳は、論理を受け取る余裕を持っていないからです。

一方で、笑い声や人の賑わいは、社会的なつながりに反応する回路を動かします。安心と結びつくこの回路が働きはじめると、警報のほうが少しずつ静まっていく。

行動を変えるとき、「気持ちが整ってから動く」のではなく「小さく動いたら気持ちがついてくる」という順番が有効だと知られています。心理療法では行動活性化と呼ばれる考え方です。

岩戸の前の祭りは、まさにそれをやっていました。中にいる人を変えようとせず、外側の空気を先に変えたのです。


いま、あなたに置き換えると

この神話が現代の私たちに差し出しているものを、三つに絞ってみます。

ひとつ。閉じたことを責めなくていい。

隠れたのは、あなたが弱いからではありません。守るべきものがあったからです。天照大御神ですら岩戸に入りました。

ふたつ。正論で自分を引っぱり出そうとしない。

「こんなことではいけない」と自分を叱っても、扉は開きません。神々でさえ、その方法を選びませんでした。必要なのは、外の空気が少しだけ明るくなることです。

みっつ。ほんの少し戸を開ければ、あとは誰かが手を取ってくれる。

天照大御神が自分でしたのは、戸をわずかに開けて外をのぞいたこと、それだけでした。あとは手力男が引き出してくれた。全部をひとりでやり切る必要はないのです。

私自身、あの家から出られるようになったきっかけは、何か大きな決意ではありませんでした。ほんの少し外の気配を感じただけです。そこから、心と脳のしくみを学び直すところまで来ました。

いま同じ場所にいる方に伝えたいのは、それだけです。戸を全部開ける必要はありません。


この神様が現れたとき

神託引きで天照大御神が出たなら、それはあなたの光が消えていないという報せです。

隠れているだけ。そして、出ていく理由をずっと待っている。

いま中心に立つことをためらっているなら、その遠慮はもう手放していい時期かもしれません。あなたが照らす番が来ています。


天照大御神とゆかりの深い場所

  • 伊勢神宮 内宮(皇大神宮)/三重県伊勢市 ― 天照大御神をお祀りする、日本の総氏神とされる社
  • 天岩戸神社/宮崎県高千穂町 ― 岩戸隠れの舞台と伝わる地
  • 日向大神宮/京都市 ― 「京の伊勢」と呼ばれ、天岩戸をくぐる参拝ができます

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