日本でいちばん数の多い神社をご存じでしょうか。
稲荷神社です。全国に三万社とも、それ以上ともいわれます。あの朱い鳥居が並ぶ光景は、日本の風景そのものと言っていいほど、私たちの目に馴染んでいます。
その主祭神が、宇迦之御魂(うかのみたま)です。
宇迦之御魂とは、どんな神様か
須佐之男命と、神大市比売(かむおおいちひめ)の子と語られます。姉妹に大年神(おおとしのかみ)がいます。
「ウカ」とは、食物を意味する古い言葉です。「宇迦之御魂」で、食物を司る御魂ということになります。
司るものは、実り。豊かさ。そして、めぐること。
米は、日本人にとって単なる食べ物ではありませんでした。年貢であり、通貨であり、命そのものでした。食べ物の神が財の神にもなったのは、自然な流れだったのです。
なぜ狐なのか
稲荷といえば狐、というほど結びついています。けれど狐は宇迦之御魂そのものではありません。神の使いです。
理由には諸説あります。
狐は、稲を食い荒らす鼠を狩ってくれる、田の守り手でした。稲の実る秋に山から里へ下り、春に山へ帰る。その動きが稲作の周期と重なっていた、とも言われます。
もうひとつ、「御饌津神(みけつかみ)」という古い呼び名が、「三狐神」と読み替えられていったという説もあります。
いずれにせよ、狐は田と人のあいだを行き来する存在でした。境界を越えて、行って戻ってくるもの。
これは、この神様の性質そのものだと思います。
実りは、出来事ではなく循環です
宇迦之御魂を理解するうえで、いちばん大事なのはここだと思っています。
実りとは、一度きりの出来事ではありません。
蒔く。育てる。刈る。そして、また蒔く。この輪が回り続けることが、豊かさです。
一度の収穫がどれだけ大きくても、次を蒔かなければ翌年は何もありません。逆に、収穫が小さくても輪が回っていれば、暮らしは続いていきます。
稲荷の朱い鳥居が、どこまでも連なっているのを思い浮かべてください。あれは一本では意味をなさないものです。
「めぐらせる」を、脳の側から見ると
少し脳のしくみに触れさせてください。
人は、受け取るときより与えるときにも報われます
誰かに何かを与えたとき、脳の報酬に関わる回路が反応することが知られています。受け取るときだけでなく、与えるときにも。
これは、私たちが助け合いによって生き延びてきた生き物だからだと説明されます。与えることが苦痛でしかなければ、集団は成り立ちませんでした。
つまり、**めぐらせることは我慢ではありません。**それ自体に報いがある行為として、私たちの中に組み込まれています。
そして、返ってくることも知られています
誰かから何かを受け取ると、返したくなる。この傾向は互恵性と呼ばれ、文化を問わず広く見られるものです。
ここで大事なのは、返ってくる相手は同じ人とは限らないということです。あなたが誰かに手を貸したことが、まったく別の場所から戻ってくる。
出したものが、そのままの形では返ってこない。かたちを変えて、時期をずらして、めぐって返ってくる。
稲を蒔いた人が、その稲そのものを受け取るわけではないのと同じです。
ただし、片方に偏ると回りません
一方で、注意すべきこともあります。
与えるばかりで受け取らない状態が続くと、消耗します。逆に、受け取るばかりでも輪は止まります。
豊かさとは、量ではなく回り続けていることです。宇迦之御魂が教えているのは、たぶんそこです。
いま、あなたに置き換えると
出したものが、めぐって返ってきます。
いま何も返ってきていないように感じるなら、それは輪がまだ半周しているところかもしれません。蒔いた種は、蒔いたその日には実りません。
そして、受け取ることも輪の一部です。
助けを断り続けている方は、意外と多いのです。迷惑をかけたくない、自分でなんとかしたい。その気持ちは尊いものですが、受け取らないことは、相手から与える機会を奪うことでもあります。
輪は、両方向に回って初めて輪になります。
この神様が現れたとき
神託引きで宇迦之御魂が出たなら、それはめぐらせる時期という報せです。
抱え込んでいるものがあれば、少し手放してみてください。差し出したものは、思わぬところから、思わぬ形で戻ってきます。
そして、差し伸べられた手があるなら、素直に受け取ってください。それも実りのうちです。
宇迦之御魂とゆかりの深い場所
- 伏見稲荷大社/京都市伏見区 ― 全国の稲荷神社の総本宮。千本鳥居で知られます
- 笠間稲荷神社/茨城県笠間市 ― 日本三大稲荷のひとつに数えられます
- 祐徳稲荷神社/佐賀県鹿島市 ― 山の斜面に建つ壮麗な社殿で知られます
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