神託の言葉

二度殺された神|大国主と、遠回りが道になるということ

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

出雲大社に祀られ、縁結びの神として知られる大国主(おおくにぬし)。

けれどその生涯を『古事記』でたどると、縁結びどころではないことに気づきます。

兄たちに二度殺され、二度蘇り、逃げ、試され、また逃げる。読んでいて、よくここまで折れなかったものだと思うほどです。

そしてその果てに、国を治める神になりました。


大国主とは、どんな神様か

須佐之男命の子孫と語られます。名前は「大いなる国の主」。葦原中国(あしはらのなかつくに)を造り、治めた神です。

大国主という名のほかに、大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)、葦原色許男神(あしはらしこおのかみ)など、いくつもの名を持ちます。名前が変わるたびに、この神様は別の段階へ進んでいます。

司るものは、縁。忍耐。そして、築くこと。


はじまりは、白い兎でした

有名な因幡の白兎の話は、大国主がまだ大穴牟遅と呼ばれていた頃のことです。

八十神(やそがみ)と呼ばれる大勢の兄たちが、因幡の八上比売に求婚しに向かいます。大穴牟遅は、その荷物持ちとして最後尾を歩いていました。

途中、皮を剥がれて泣いている兎に出会います。

兄たちは面白半分に「海の塩水で洗い、風に当たれ」と教え、兎はいっそうひどい状態になりました。

そこへ遅れて来た大穴牟遅が、真水で体を洗い、蒲(がま)の花粉の上に寝転がるよう教えます。兎の傷は癒えました。

そして兎は告げます。**「八上比売は、あなたを選ぶでしょう」**と。

その通りになりました。


そこから、地獄が始まります

兄たちは激怒します。

まず、山の上から焼けた大岩を転がし落としました。猪だと思って受け止めた大穴牟遅は焼け死にます。母神の嘆きによって、一度目の蘇生。

次に、大木の裂け目に挟んで殺します。二度目の死。そしてまた蘇生。

母は、これ以上ここにいては殺されると考え、須佐之男命のいる根の国へ逃がしました。

根の国では、須佐之男命が次々に試練を課します。蛇の室に寝かされ、百足と蜂の室に入れられ、野原で火を放たれる。

そのたびに、須佐之男命の娘・須勢理毘売(すせりびめ)が助けました。焼け野原では、鼠が「内はほらほら、外はすぶすぶ」と教え、地面の穴に隠れて生き延びます。

やがて二人は、須佐之男命の髪を垂木に結びつけて逃げ出しました。

背後から、須佐之男命が叫びます。**「その太刀と弓で兄たちを追い払い、大国主となれ」**と。

追手であるはずの父が、最後に名を授けたのです。


助けたものが、助けてくれる

この物語を通して見ると、あることに気づきます。

大国主は、ひとりでは一度も勝っていません。

兎に助言し、その兎が縁を告げた。母が二度蘇らせた。須勢理毘売が試練から救った。鼠が隠れ場所を教えた。

強さで道を切り開いた神ではないのです。助けた者に助けられ、支えられて進んだ神です。

だからこの神様が縁結びなのだと、私は思っています。恋愛だけの話ではありません。縁そのものを結ぶ力が、この神様の本質です。


「遠回り」を、脳の側から見ると

親切は、返ってきます

人に手を貸したとき、その相手だけでなくまわりの誰かからも好意が返ってくる傾向があることが知られています。

助けられた兎が縁を告げたのは、物語の都合ではありません。そういうことは、実際に起こります。

しかも大穴牟遅は、見返りを計算して兎を助けたわけではありませんでした。荷物持ちとして最後尾を歩いていた青年が、ただ目の前の生き物を放っておけなかった。

計算のない親切ほど、遠くから返ってきます。

逆境は、意味づけを変えると別のものになります

つらい出来事そのものは変えられません。けれど、それをどう位置づけるかは変えられます。

出来事を、自分の物語の一部として語り直せるようになると、心理的な回復が進みやすいことが知られています。「あれは無駄だった」から「あれがあって、ここに来た」へ。

大国主は、二度殺されました。その事実は消えません。けれど根の国で試練を越えたとき、それは**「殺された過去」から「大国主になるまでの道のり」に変わりました。**

須佐之男命が最後に名を与えたのは、そのことを言祝いだのだと思います。

ただし、時間がかかります

ここは正直に書いておきたいところです。

意味づけの組み替えは、渦中では起きません。傷ついている最中に「これも意味がある」と言われても、届かないでしょう。

大国主も、逃げている最中には何も分かっていなかったはずです。**振り返ったときに、初めて道に見える。**それでいいのだと思います。


いま、あなたに置き換えると

遠回りに見えた縁が、そのまま道になっていることがあります。

いま無駄に思えている時間があるなら、判断を保留しておいてください。まだ半分しか歩いていない道を、行き止まりだと決めるのは早いのです。

そして、ひとりで勝とうとしないでください。

大国主は一度も単独で勝っていません。それは弱さではなく、この神様の強さのかたちでした。

助けを借りることは、負けではありません。


この神様が現れたとき

神託引きで大国主が出たなら、それはいま結ばれつつある縁があるという報せです。

まだ形になっていないかもしれません。遠回りに見えているかもしれません。それでも、糸は動いています。

目の前の誰かに手を貸してください。それがいちばん確かな近道です。


大国主とゆかりの深い場所

  • 出雲大社/島根県出雲市 ― 大国主を祀る、縁結びの総本社
  • 白兎神社/鳥取県鳥取市 ― 因幡の白兎の舞台。兎を祀ります
  • 大神神社/奈良県桜井市 ― 大国主の和魂とされる大物主神を祀ります

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