神託の言葉

世界は、ひとかきから始まった|伊邪那岐と、最初の一歩の話

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

日本神話の世界は、どう始まったか。

設計図があったわけではありません。壮大な計画も、完成予想図もありませんでした。

海を、矛でひとかきしただけです。


伊邪那岐とは、どんな神様か

伊邪那岐(いざなぎ)は、伊邪那美(いざなみ)とともに国を生んだ男神です。名は「誘(いざな)う男」を意味するといわれます。

天照大御神、月読命、建速須佐之男命という三貴子の父でもあります。

司るものは、創造。決断。そして、禊(みそぎ)。


天浮橋の上で

天と地がまだ形をなしていなかった頃、天つ神たちは伊邪那岐と伊邪那美に、この漂う国を固めるよう命じ、天沼矛(あめのぬぼこ)を授けました。

二柱は天浮橋(あめのうきはし)に立ちます。

矛を下ろし、海をかき混ぜ、引き上げる。矛の先から滴り落ちたものが積もって島になりました。**淤能碁呂島(おのごろじま)**です。

二柱はその島に降り、柱を立て、御殿を建て、国生みを始めました。

ここで気づいてほしいのは、手順の少なさです。

矛を下ろす。かき混ぜる。引き上げる。それだけ。

世界の始まりが、これほど素朴な動作だったというのは、私にはとても大事なことに思えます。


一度目は、失敗しています

もうひとつ、見落とされがちな場面があります。

二柱は柱をめぐり、出会って言葉を交わします。このとき先に声をかけたのは伊邪那美でした。

生まれた子は、水蛭子(ひるこ)。うまく育たず、葦の舟に乗せて流すことになりました。

二柱は天つ神に伺いを立て、「女から先に声をかけたのが良くなかった」と告げられます。やり直したところ、今度は次々に島が生まれました。

最初の試みは、うまくいかなかったのです。

やり直しがきいた。それがこの神話の伝えていることだと、私は受け取っています。


黄泉から戻り、身を清める

伊邪那美が火の神を産んで命を落としたあと、伊邪那岐は黄泉の国へ迎えに行きます。

けれど「見ないでほしい」という約束を破り、変わり果てた姿を見てしまう。追われ、命からがら逃げ帰りました。

地上に戻った伊邪那岐は、川で身を清めます。このから、多くの神々が生まれました。左目から天照大御神、右目から月読命、鼻から建速須佐之男命。

苦しい場所から戻ったあと、洗い流したところに新しいものが生まれた。

この順番も、覚えておきたいところです。


「動き出す」を、脳の側から見ると

気持ちが整うのを待つと、たいてい始まりません

何かを始めるとき、私たちはつい「やる気が出たら」「準備が整ったら」と考えます。

けれど心理学の分野では、行動が先で、気持ちは後からついてくるという順番のほうが有効だと知られています。行動活性化と呼ばれる考え方です。

やる気が出るのを待つのではなく、小さく動くことでやる気が生まれる。

伊邪那岐は、完成図を持っていませんでした。矛を下ろしてかき混ぜてみたら、島ができた。動いたから、形が見えたのです。

決めることは、消耗します

もうひとつ。判断や選択を繰り返すと、判断の質そのものが落ちていくことが知られています。

つまり、**考え続けることは、決断の助けになりません。**むしろ削っていきます。

「もう少し考えてから」と先送りするほど、決めるための力は減っていく。これは意志の弱さではなく、仕組みの問題です。

だから、大きな一手ではなく小さな一手を、早めに置くほうがいい。矛を一度かき混ぜるくらいの、取り返しのつく動作を。

やり直せる形で始める

伊邪那岐と伊邪那美は、一度目に失敗し、やり直しました。

始める前にすべてを見通そうとすると、いつまでも始まりません。やり直せる規模で始めれば、失敗は情報になります。

うまくいかなかったことそのものが、次の手を教えてくれる。水蛭子の場面は、そういう話です。


いま、あなたに置き換えると

まず一歩を差し出してください。形はあとからついてきます。

何を始めるべきか分からないなら、それは考えが足りないのではなく、動きが足りないのかもしれません。

完璧な計画を待っていると、機会のほうが先に過ぎていきます。

そして、うまくいかなかったらやり直せます。

神々でさえ一度目は失敗しました。あなたが一度で当てなければならない理由は、どこにもありません。

苦しい場所から戻ったら、まず身を清めてください。

これは比喩ではなく、実際に有効です。眠る。食べる。風呂に入る。散歩する。整えたあとに、新しいものが生まれます。伊邪那岐がそうしたように。


この神様が現れたとき

神託引きで伊邪那岐が出たなら、それは始めていいという報せです。

まだ準備が足りないと感じているかもしれません。それでも構いません。矛を下ろすところから、すべては始まりました。

大きく動く必要はありません。ひとかきで十分です。


伊邪那岐とゆかりの深い場所

  • 多賀大社/滋賀県多賀町 ― 伊邪那岐・伊邪那美をお祀りします
  • 伊弉諾神宮/兵庫県淡路市 ― 国生みの島・淡路島に鎮まる、日本最古の神社のひとつ
  • 江田神社/宮崎市 ― 伊邪那岐が禊を行ったと伝わる「みそぎ池」があります

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