神託の言葉

炎の中で産んだ姫|木花之佐久夜比売と、短いから美しいということ

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

富士山に祀られる女神をご存じでしょうか。

木花之佐久夜比売(このはなのさくやびめ)。桜の花のように美しいと語られる姫です。

そして、人の命に限りがある理由を背負った神様でもあります。


木花之佐久夜比売とは、どんな神様か

山の神・大山津見(おおやまつみ)の娘です。姉に石長比売(いわながひめ)がいます。

「木花」は桜を指すとされ、「佐久夜」は咲くことに通じます。咲き誇る花そのものを名に持つ女神です。

富士山本宮浅間大社をはじめ、全国の浅間神社に祀られています。

司るものは、華。刹那。そして、情熱。


姉とともに嫁いだ、その結末

天孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が地上に降りたとき、笠沙の岬でこの姫に出会い、心を奪われます。

父の大山津見は喜び、姉の石長比売とともに嫁がせました。

けれど瓊瓊杵尊は、姉を送り返してしまいます。美しくないという理由でした。

これを聞いた大山津見は言います。

石長比売を添えたのは、天孫の命が岩のように永く揺るがぬように。木花之佐久夜比売を添えたのは、木の花が咲くように栄えるように。

姉を返したのだから、その命は木の花のように儚くなるだろう。

こうして、天孫の子孫である人の命には、限りができたと語られます。

美しさを選んだ代わりに、永遠を失った。日本神話でも、とりわけ苦い場面です。


炎の中で子を産む

一夜を共にしただけで身ごもった姫に、瓊瓊杵尊は疑いを口にします。本当に自分の子なのか、と。

姫は答えました。

もし天孫の子でないなら、無事には生まれないでしょう。もし本当に天孫の子であるなら、何があっても無事に生まれるはずです。

そう言って、産屋に入り、戸を土で塗り塞ぎ、自ら火を放ちました。

燃えさかる炎の中で、三柱の御子が生まれます。火照命(ほでり)、火須勢理命(ほすせり)、火遠理命(ほおり)。

疑いは、晴れました。


この神話が伝えていること

私はこの二つの話を、いつも並べて読みます。

永遠を失った女神が、炎の中で命を生んだ。

石長比売を返したことで、人の命は儚くなりました。けれどその同じ女神が、燃えさかる火の中で、次の命を確かに世に出しています。

限りがあることと、生まれることは、切り離せない。

桜が美しいのは、散るからです。散らない花を、人はあれほど見上げません。


「限りがあること」を、脳の側から見ると

終わりが見えると、価値の感じ方が変わります

同じものでも、残り時間が限られていると分かった瞬間に、感じ方が変わることが知られています。

いつでもできると思っているうちは動かないのに、期限が示されると急に動き出す。これは怠けているのではなく、人の判断が、時間の枠組みに強く影響されるからです。

「いつか」は、たいてい来ません。それは意志の問題ではなく、期限のない目標が行動に結びつきにくいという、仕組みの話です。

短い期間のほうが、深く残ります

もうひとつ。強い感情をともなう出来事は、記憶に残りやすいことが知られています。

長く続いた平坦な時間より、短くても濃い時間のほうが、あとから鮮明に思い出せる。旅行の数日を何年も覚えているのに、同じ長さの日常を思い出せないのは、そのためです。

長さと、豊かさは、別のものです。

ただし、これは焦らせる話ではありません

ここは書き添えておきたいところです。

「時間は限られている」という言葉は、人を追い立てるためにも使われます。けれどこの神話が言っているのは、そういうことではないと思っています。

限りがあるからこそ、いま咲くことを惜しまなくていい。

急げ、ではありません。惜しむな、です。


いま、あなたに置き換えると

短いから美しい。いま咲くことを惜しまないでください。

続くかどうか分からないから始めない、という選び方があります。それも慎重さで、悪いことではありません。

けれど、続かないと分かっていても、やる価値のあることはあります。

一夜の出会いで身ごもった姫は、疑われても言い訳をしませんでした。炎に入って証明しました。中途半端なことをしなかった。

いま迷っていることがあるなら、続くかどうかではなく、いま咲きたいかどうかで決めてよいのかもしれません。


この神様が現れたとき

神託引きで木花之佐久夜比売が出たなら、それはいまが盛りだという報せです。

ためらっている時間は、そのまま散っていきます。

咲いてください。短くても構いません。


木花之佐久夜比売とゆかりの深い場所

  • 富士山本宮浅間大社/静岡県富士宮市 ― 全国の浅間神社の総本宮。富士山を御神体とします
  • 新屋山神社/山梨県富士吉田市 ― 富士の麓に鎮まり、大山津見とともにお祀りされています
  • 子安神社/東京都八王子市 ― 安産の神として、炎の中で子を産んだ神話にちなみます

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