道に迷ったとき、私たちは「どちらへ行くべきか」を考えます。
けれど本当に困っているのは、選べないことより、選んだあと足が出ないことのほうかもしれません。
猿田彦(さるたひこ)という神様は、そこに立っています。
猿田彦とは、どんな神様か
天孫降臨の場面に現れる、導きの神です。
『日本書紀』はその姿を、はっきりと描いています。鼻の長さは七咫(ななあた)、背丈は七尺あまり。口の端は明るく光り、目は八咫鏡のように、赤いほおずきのように輝いていた。
異形といっていい姿です。のちの天狗のもとになったともいわれます。
伊勢の五十鈴川のほとりに鎮まり、猿田彦神社に祀られています。
司るものは、導き。岐路。そして、先導すること。
天八衢に立つ
瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が高天原から地上へ降りようとしたときのことです。
天と地の分かれ道――**天八衢(あめのやちまた)**に、見たこともない神が立っていました。上は高天原を照らし、下は葦原中国を照らすほどの光を放っています。
神々は恐れ、誰も近づこうとしません。
そこで天照大御神は、天宇受賣(あめのうずめ)を遣わします。「面と向かって、名を問いなさい」と。
天宇受賣が問うと、その神は答えました。
「私は国津神、猿田彦。天孫が降ると聞き、お迎えして先導しようと待っておりました。」
立ちはだかっていたのではありませんでした。待っていたのです。
道を作ったのではない
この場面で、私がいつも立ち止まるところがあります。
猿田彦は、新しい道を切り拓いたわけではありません。
天八衢は、もともとそこにありました。分かれ道は最初から存在していて、猿田彦がしたのは、どちらへ行くのかを示したことだけです。
そして先頭を歩いた。
案内された側から見れば、道が現れたように感じたでしょう。けれど実際には、道はもうそこにあったのです。
「決められない」を、脳の側から見ると
迷っているとき、実はもう傾いていることが多い
何かを選ぶとき、理由を並べる前に、すでに気持ちが傾いていることがあります。
そのあとで理由を探す。選んだ理由として自分に説明できる材料を、後から集める。人はしばしばそういう順番をたどることが知られています。
つまり、「どちらか分からない」と言いながら、内側ではもう選ばれている場合があるのです。
猿田彦が「待っていた」と答えたことに、私はこれを重ねます。道は、あなたが探しに行く前から、あなたを待っていたのかもしれません。
考え続けても、決断は良くなりません
判断や選択を繰り返すと、判断の質そのものが落ちていくことが知られています。
先送りにするほど、決めるための力は減っていく。「もう少し考えてから」は、たいてい状況を良くしません。
決断より、最初の一歩のほうが重い
そしてもうひとつ。
私たちは「決めること」を難所だと思いがちですが、実際に止まるのは決めたあとです。
心の中で決めても、行動が伴わなければ何も変わりません。そして行動は、気持ちが整うのを待っていても始まりません。小さく動くことで、気持ちのほうが後からついてくるという順番のほうが、確かなのです。
猿田彦は、指を差しただけではありませんでした。先頭を歩きました。
いま、あなたに置き換えると
道はもう選ばれています。あとは足を出すだけです。
いくつもの選択肢を前にして動けないとき、材料が足りないのではないかもしれません。すでに答えを知っていて、認めるのが怖いだけということもあります。
心が傾いているほうを、正直に見てください。
そして、恐ろしく見えるものが、実は待っていてくれることがあります。
神々でさえ、猿田彦の姿に怯えて近づけませんでした。けれど名を問うてみたら、迎えに来た神でした。
問う前に、決めつけないでください。
この神様が現れたとき
神託引きで猿田彦が出たなら、それは岐路に立っているという報せです。
そして、そこにはもう導き手がいます。あなたが気づいていないだけかもしれません。
一歩を出せば、道のほうが応えます。
猿田彦とゆかりの深い場所
- 猿田彦神社/三重県伊勢市 ― 猿田彦の子孫が代々奉仕してきたと伝わる、みちひらきの社
- 椿大神社/三重県鈴鹿市 ― 猿田彦を主祭神とし、猿田彦大本宮とも称されます
- 二見興玉神社/三重県伊勢市 ― 夫婦岩で知られ、猿田彦をお祀りします
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