神託の言葉

剣の切先に座った神|建御雷と、言うべきことを言うということ

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

日本神話でもっとも絵になる場面を挙げるなら、私はここを選びます。

出雲の稲佐の浜。波打ち際に、一振りの剣が逆さに突き立てられている。

その切先の上に、神が座っている。

建御雷(たけみかづち)です。


建御雷とは、どんな神様か

伊邪那岐が火の神・火之迦具土を斬ったとき、剣についた血が岩に飛び散って生まれた神と語られます。

雷であり、剣そのものでもある神様です。

鹿島神宮の主祭神。武の神として、古くから篤く信仰されてきました。藤原氏の氏神でもあり、奈良の春日大社にも祀られています。

司るものは、雷。決着。そして、威。


国譲りの使者として

葦原中国は、大国主が治めていました。高天原はこの国を天孫に譲るよう求め、これまで二度、使者を送っています。

一度目の天菩比神は、大国主に懐いて三年経っても報告しませんでした。 二度目の天若日子は、大国主の娘と結婚して八年帰りませんでした。

二度とも、失敗しています。

三度目に選ばれたのが、建御雷でした。経津主(ふつぬし)とともに、稲佐の浜に降り立ちます。

そして——十拳剣を抜き、波の上に逆さに突き立て、その切先の上に胡座をかいて座りました。

その姿のまま、大国主に問います。この国を天つ神の御子に献上するか、と。


なぜ、この座り方だったのか

考えてみると、これは奇妙な行動です。

戦うつもりなら、剣は手に持つはずです。逆さに立てて座ってしまえば、すぐには抜けません。

つまり建御雷は、剣を使わないと示しながら、剣の上にいたのです。

力があることを見せながら、それを振るわない。この姿勢そのものが、答えを引き出しました。

大国主は言います。「私は答えられません。子の事代主が答えるでしょう」

事代主は釣りの手を止め、ためらわずに承諾しました。もうひとりの子・建御名方は力比べを挑み、敗れて諏訪へ逃れます。

こうして、国は譲られました。

建御雷は、誰も斬っていません。


「言うべきことを言う」を、脳の側から見ると

先送りは、状況を悪くします

一度目と二度目の使者は、いずれも言うべきことを言いませんでした。

懐いてしまった。結婚してしまった。悪意はなかったはずです。ただ、切り出せないまま時間が過ぎた。

言いにくいことを先延ばしにすると、時間とともにさらに言いにくくなることが知られています。避けることで一時的に楽になり、その安堵が避ける行動を強めてしまう。回避が回避を呼ぶ構造です。

三年、八年という年月は、大げさな誇張ではないのかもしれません。

態度は、言葉より先に伝わります

もうひとつ。人が相手から受け取る情報は、言葉の内容だけではありません。姿勢、間、声の落ち着きといったものが、大きく作用します。

建御雷は、長い演説をしていません。ただ、揺るがない姿勢で座っていました。

同じ言葉でも、慌てて言うのと、静かに言うのとでは、まったく違うものとして届きます。

力を持ちながら使わないこと

そして、これがいちばん大事だと思っています。

力を振るわずに示すほうが、振るうより強いことがあります。

抜いてしまえば、勝っても遺恨が残ります。抜かずに収まれば、相手は自分の意志で退いたことになる。

事代主が、迫られてではなく自分から釣り竿を置いたことに、それが表れています。


いま、あなたに置き換えると

言うべきことを言ってください。それだけで潮目が変わることがあります。

言えないまま抱えていることは、時間が経つほど重くなります。三年、八年と経っていることが、あなたにもあるかもしれません。

ただし、勢いで言う必要はありません。

建御雷は怒鳴っていません。剣も振っていません。静かに座って、問うただけです。

強く言うことと、はっきり言うことは、別のものです。はっきり、静かに。 それがいちばん通ります。


この神様が現れたとき

神託引きで建御雷が出たなら、それは決着をつける時期という報せです。

曖昧なままにしてきたことがあるなら、いまがその時です。

構える必要はありません。ただ、逃げずに座ってください。


建御雷とゆかりの深い場所

  • 鹿島神宮/茨城県鹿嶋市 ― 建御雷を主祭神とする東国随一の古社。要石で知られます
  • 春日大社/奈良市 ― 建御雷が白鹿に乗って遷ったと伝わり、奈良の鹿の由来とされます
  • 稲佐の浜/島根県出雲市 ― 国譲りの舞台。剣を逆さに立てた地と伝わります

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