神託の言葉

社殿のない神|大物主神と、見えないものを軽んじないこと

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

奈良に、本殿のない神社があります。

大神神社(おおみわじんじゃ)。日本最古の神社のひとつとされます。

拝殿はあります。けれどその奥に、社殿はありません。三輪山そのものが御神体だからです。

祀られているのが、大物主神(おおものぬしのかみ)です。


大物主神とは、どんな神様か

名の「オオモノヌシ」は、大いなる物の主。ここでいう「物」とは、目に見えない霊的な力を指すとされます。

大国主の和魂(にきみたま)――穏やかなほうの魂――だという説もあります。

司るものは、見えざる力。畏れ。そして、縁。


海を照らして現れた

大国主が国造りを進めていたとき、相棒の少名毘古那が常世の国へ去ってしまいます。

ひとり残された大国主は嘆きました。「私ひとりで、どうしてこの国を造れようか」

そのとき、海を照らして近づいてくるものがありました。

その神は言います。「私を大和の東の山に祀りなさい。そうすれば、共に国を造ろう。」

こうして三輪山に祀られたのが、大物主神です。

**姿かたちは、はっきりと語られていません。**光として現れ、山に鎮まった。それだけです。


夜ごと通う神

大物主神には、有名な恋の話が残っています。

活玉依毘売(いくたまよりびめ)という美しい姫のもとに、夜ごと立派な男が通ってきました。やがて姫は身ごもります。

けれど、その男が何者なのか分かりません。親に問われ、姫も答えられませんでした。

そこで親は、糸を巻いた**糸巻(へそ)**を渡し、男の衣の裾に針で刺しておくよう教えます。

翌朝、糸をたどると――戸の鍵穴を通り抜け、三輪山まで続いていました。

残った糸は、三巻き。それで三輪と呼ぶのだ、と『古事記』は記します。


見てしまった話

もうひとつ、『日本書紀』に残る話があります。

倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめのみこと)のもとにも、大物主神は夜だけ通いました。

姫は願います。「お姿を見たいのです。」

神は答えました。「では明朝、お前の櫛箱の中にいよう。けれど私の姿に驚かないでほしい。」

翌朝、姫が櫛箱を開けると――そこにいたのは、小さく美しい白蛇でした。

姫は驚いて、声をあげてしまいます。

神は恥じ、人の姿に戻って言いました。**「お前は私に恥をかかせた。ならば、私もお前に恥をかかせよう。」**そして三輪山へ帰っていきます。

姫は座り込み、その拍子に箸で身を突いて命を落としました。

確かめたことで、関係が終わったのです。


「見えないもの」を、脳の側から見ると

分からないものを、私たちは放っておけません

説明のつかないものに出会ったとき、脳は何とかして意味を与えようとします。

これは弱点ではなく、生き延びるために必要な働きです。曖昧なままにしておくより、仮でも説明があったほうが動けます。

けれどこの働きには、強すぎるときがあります。

分からないままにしておけない。確かめずにいられない。相手の気持ちを、はっきりさせずにいられない。

姫が「見たい」と言ったのは、そういうことだったのだと思います。

全部が見える必要はありません

不確かさに耐える力には、個人差があることが知られています。耐えられないほど、確認を繰り返す行動につながりやすくなります。

そして**確認は、たいてい安心をくれません。**一度確かめると、次はもっと確かめたくなる。

大物主神の神話が伝えているのは、曖昧なままにしておける関係のほうが続く、ということかもしれません。

夜ごと通っていたあいだ、ふたりは幸せだったはずです。壊れたのは、確かめた朝でした。

ただし、これは我慢の話ではありません

念のため書き添えます。

これは「相手を問いただすな」という話ではありません。説明されるべきことは、説明されるべきです。

区別したいのは、相手の輪郭を全部見ないと不安だという気持ちのほうです。

人には、見せない部分があります。それは隠しごととは限りません。まだ言葉になっていないだけのことも多いのです。


いま、あなたに置き換えると

見えないものを、軽く扱わないでください。

数字にならないもの、証拠のないもの、説明できない感覚。それらは「無い」わけではありません。

三輪山には社殿がありません。山そのものが神だから、建物で囲う必要がなかったのです。

そして、確かめたくなったときは一度立ち止まってください。

いま確かめようとしていることは、本当に確かめる必要があることでしょうか。それとも、曖昧さに耐えられないだけでしょうか。

後者なら、扉を開けないほうがいい朝もあります。


この神様が現れたとき

神託引きで大物主神が出たなら、それは目に見えないものが働いているという報せです。

まだ形になっていないものを、急いで確かめようとしないでください。

糸は、あなたが眠っているあいだも伸びています。


大物主神とゆかりの深い場所

  • 大神神社/奈良県桜井市 ― 本殿を持たず、三輪山を御神体とする日本最古級の神社
  • 狭井神社/奈良県桜井市 ― 大神神社の摂社。三輪山への登拝口があります
  • 金刀比羅宮/香川県琴平町 ― こんぴらさん。大物主神を主祭神とします

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