『古事記』の一行目に、この神様は登場します。
天地初発(あめつちのはじめ)のとき、高天原に成りませる神の名は、天之御中主神。
日本神話の、いちばん最初の神様です。
そして、**そのすぐあとに姿を隠します。**以後、ほとんど出てきません。
天之御中主神とは、どんな神様か
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)。名は天の中央にいる主を意味します。
高御産巣日神、神産巣日神とともに造化三神と呼ばれ、その筆頭です。
『古事記』は、この三柱について「独神(ひとりがみ)となりまして、身を隠したまひき」と記します。
伴侶を持たず、単独で成り、そして隠れた。
司るものは、根源。始まり。そして、孤高。
物語が、ありません
日本神話の神々には、たいてい物語があります。
天照大御神は岩戸に隠れ、須佐之男命は大蛇を退治し、大国主は二度殺されて蘇る。
天之御中主神には、それがありません。
戦わず、恋をせず、失敗もせず、誰かを助けもしない。名が記され、隠れた、それだけです。
長いあいだ、私はこれを「記録が失われたのだろう」と考えていました。
いまは、少し違うように思っています。
この神様は、何もしないことによって中心にいるのではないか、と。
中心には、何もありません
車輪を思い浮かべてください。
外側の輪が回り、輻(や)が支えています。けれど**軸の中心には、何もありません。**穴が空いているだけです。
その空白があるから、車輪は回ります。中心が詰まっていたら、動きません。
天の中央にいて、姿を持たず、何もしない神。
何もないことが、働きなのです。
「何もしない」を、脳の側から見ると
何もしていないとき、脳は最も忙しくしています
課題に集中していない時間、脳ではデフォルトモード・ネットワークという回路が活発になることが知られています。
担うのは、自分について考えること、過去を振り返ること、未来を想像すること。内省です。
ぼんやりしている時間は、無駄な時間ではありません。その回路でしかできない仕事があります。
埋めすぎると、統合されません
予定を詰め、通知に応え、常に何かを見ている状態が続くと、この回路は前に出てきません。
その結果、経験は入ってくるのに、整理されないまま積み上がっていくことになります。
散歩中や風呂の中でふと考えがまとまるのは、そこにようやく空白ができるからです。
空白は、余りではありません。必要な部分です。
ひとりでいることと、孤独は違います
もうひとつ。天之御中主神は「独神」でした。
ひとりでいることと、孤独を感じることは、別のものとして扱われます。人に囲まれていても孤独なことがあり、ひとりでも満ちていることがあります。
分かれ目のひとつは、それを自分で選んでいるかどうかです。
この神様は、隠れることを自分で選びました。追い出されたのではありません。
いま、あなたに置き換えると
何もしていない時期を、失われた時間だと思わないでください。
動けない。成果がない。誰にも会っていない。語ることが何もない。
そういう時期は、この神様と同じ場所にいるということです。日本神話の一番はじめに置かれた神が、そういう神様なのです。
そして、今までの常識を一度そっと脇へ置いてみてください。
この神様は何も背負っていません。過去も、実績も、他人の期待も。だから、どこからでも始められます。
高い理想を持ったまま、最初の一歩を。
この神様が現れたとき
神託引きで天之御中主神が出たなら、それは始まりの位置にいるという報せです。
まだ何も形になっていなくて構いません。むしろ、そのほうがいい。
中心は、空いているから中心なのです。
天之御中主神とゆかりの深い場所
- 東京大神宮/東京都千代田区 ― 造化三神をあわせてお祀りしています
- サムハラ神社/大阪市西区 ― 造化三神を祀り、身を守る神として信仰されます
- 秩父神社/埼玉県秩父市 ― 八意思兼命とともに、天之御中主神を祀ります
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