神託の言葉

祭りを思いついた神|思金神と、順序で解ける問題の話

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

閉じた扉を前にして、神々は困り果てていました。

太陽が隠れ、世界は闇。作物は実らず、災いが次々に起こる。

そこで一柱の神が、祭りをしようと言い出しました。

——正気の提案には、聞こえなかったはずです。


思金神とは、どんな神様か

思金神(おもいかねのかみ)。高御産巣日神の子とされます。

名の「オモイカネ」は、多くの思慮を兼ね備えるという意味だといわれます。八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)とも呼ばれ、この「八意」も、いくつもの考えを併せ持つことを指します。

秩父神社や戸隠神社の御祭神。学業や知恵の神として信仰されてきました。

司るものは、智慧。策。そして、見通すこと。


何をしたのか

天照大御神が岩戸に隠れたとき、八百万の神々は天の安の河原に集まりました。

そして『古事記』はこう記します。

「高御産巣日神の子、思金神に思わしめて……」

考えさせた、というのです。神々は、この一柱に策を委ねました。

思金神が組み立てたのは、こういう手順でした。

常世の長鳴鳥を集めて鳴かせる。 夜明けを告げる鳥の声で、朝を演出する。

天の金山の鉄で鏡を作らせる。 玉祖命に八尺瓊勾玉を作らせる。

天香山の榊を根ごと掘り、上枝に勾玉、中枝に鏡、下枝に幣を掛ける。

布刀玉命に捧げ持たせ、天児屋命に祝詞を唱えさせる。

天之手力男を戸の脇に隠す。

そして天宇受賣に舞わせる。


誰も「出てきて」と言っていない

この手順の中に、説得がひとつもありません。

呼びかけない。責めない。理由を説明しない。

代わりにしたのは、外側の状況を変えることでした。

鶏が鳴けば朝が来たように思える。鏡があれば、覗いたときに何かが映る。舞と笑いがあれば、何ごとかと気になる。手力男が脇にいれば、開いた瞬間に動ける。

すべてが、天照大御神が自分から戸を開けたときのために置かれています。

そして実際、そうなりました。


「順序」を、脳の側から見ると

恐れているとき、正論は入りません

強い恐れやストレスを感じているとき、脳の警報を担う部分が活発になり、論理を受け取る余裕が失われることが知られています。

だから「そんなことではいけない」は届きません。言葉が足りないのではなく、受け取る回路が塞がっているのです。

思金神が説得を選ばなかったのは、これを知っていたからだと思えてなりません。

人を変えるより、状況を変えるほうが効きます

行動を変えたいとき、意志や説得に頼るより、選択の手前で環境を整えるほうが確実だとされています。

置き場所を変える。手順を減らす。目に入るようにする。逆に、目に入らないようにする。

これは自分に対しても、他人に対しても同じです。

祭りは、環境そのものでした。

ひとりで考えたわけではありません

もうひとつ大事な点があります。

思金神は策を立てましたが、実行したのは自分ではありません。

鏡は伊斯許理度売命が作り、玉は玉祖命が作り、祝詞は天児屋命が唱え、舞は天宇受賣が舞い、引き出したのは天之手力男でした。

知恵とは、自分で全部やることではなく、誰に何を頼むかを見立てることでもあります。


いま、あなたに置き換えると

勢いではなく、順序で解ける問題があります。

同じことを何度も試して、うまくいかないままなら。足りないのは努力ではなく、順番かもしれません。

押しても開かないなら、押す前に何が必要かを考えてみてください。

そして、ひとりで抱えないでください。

思金神がしたのは、考えること割り振ることでした。手を動かしたのは他の神々です。

全部を自分でやろうとすると、たいてい順序を組む余裕がなくなります。


この神様が現れたとき

神託引きで思金神が出たなら、それは一度立ち止まって組み直すときという報せです。

急いで動くより、手順を見直すほうが早く着きます。

いま解けない問題は、解けないのではなく、順番が違うだけかもしれません。


思金神とゆかりの深い場所

  • 秩父神社/埼玉県秩父市 ― 八意思兼命を主祭神とし、知恵の神として信仰されます
  • 戸隠神社 中社/長野県長野市 ― 岩戸開きの策を授けた神として祀られます
  • 阿智神社/長野県阿智村 ― 思兼命が降り立った地と伝わります

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