嫉妬深い女神、と紹介されることの多い神様です。
けれど物語を読むと、印象が変わります。
この女神がいなければ、大国主は三度死んでいました。
須勢理毘売とは、どんな神様か
須勢理毘売(すせりびめ)。須佐之男命の娘であり、大国主の正妻です。
名の「スセリ」は、すさぶ――勢いのままに進む、荒々しく振る舞う――に通じるとされます。父の「スサノオ」と、同じ響きです。
気性の激しさを、名前に持っている女神です。
司るものは、情熱。嫉妬。そして、覚悟。
出会って、すぐ
大国主がまだ大穴牟遅と呼ばれていた頃。兄たちに二度殺されて蘇り、母に逃がされて根の国へたどり着きます。
そこで出会ったのが、須勢理毘売でした。
『古事記』はこう記します。目を見交わし、結婚して、そのまま父・須佐之男命のもとへ戻り、「たいそう立派な神が来ました」と告げた、と。
**即断です。**迷いがありません。
けれど父は、この男を認めませんでした。
三度、助けた
一度目。 須佐之男命は大穴牟遅を、蛇の室に寝かせます。
須勢理毘売は蛇の比礼(ひれ)――蛇を払う布――を渡し、三度打ち振れば大丈夫だと教えました。その通りにして、無事に朝を迎えます。
二度目。 今度は百足と蜂の室。
須勢理毘売は百足と蜂の比礼を渡します。また、助かりました。
三度目。 須佐之男命は野原に鏑矢を射込み、探して来いと命じます。そして四方から火を放ちました。
このときは、鼠が助けます。「内はほらほら、外はすぶすぶ」――中は空洞、入口は狭い。そう教えられて穴に隠れ、火をやり過ごしました。
須勢理毘売は、夫が死んだと思い、葬式の道具を持って泣きながら来ました。
そして、逃げた
大穴牟遅は、眠っている須佐之男命の髪を垂木に結びつけ、大きな岩で戸を塞ぎます。
そして須勢理毘売を背負い、生大刀・生弓矢・天詔琴を持って逃げました。
琴が木に触れて鳴り、須佐之男命が目を覚まします。髪をほどくあいだに、ふたりは遠くまで逃げました。
黄泉比良坂まで追ってきた須佐之男命は、遠くから叫びます。
「その太刀と弓で兄たちを追い払い、大国主となれ。そして須勢理毘売を正妻とし、宇迦の山のふもとに宮を建てて住め。」
**認めたのです。**追いながら、祝福しました。
そして、嫉妬した
国を治めるようになった大国主は、各地に妻を作ります。
八上比売。沼河比売。ほかにも。
須勢理毘売は、そのたびに激しく嫉妬しました。『古事記』が「甚(いた)く嫉妬したまひき」とはっきり書いています。
ある日、大国主が倭へ行こうとしたときのこと。
馬に片足をかけたまま、歌を詠みます。須勢理毘売も返します。
長い歌のやりとりの末、ふたりは盃を交わし、首に手をかけあって、今日まで鎮まっている――そう『古事記』は結びます。
言い合って、そのうえで一緒にいたのです。
「我慢に変えない」を、脳の側から見ると
抑え込むと、長引きます
強い感情が湧いたとき、なかったことにしようとすると、かえって長引くことが知られています。
抑えた感情は消えるのではなく、身体の緊張として残りやすい。
一方で、言葉にすることには効果があります。感情に名前をつけると、それだけで高ぶりが少し収まることが確かめられています。
須勢理毘売は、歌にしました。言葉にしたのです。
嫉妬は、大事にしている証拠でもあります
嫉妬は嫌われる感情です。けれどそれは、失いたくないものがあるという信号でもあります。
問題は感情そのものではなく、それをどう扱うかです。
黙って耐える。相手を責め続ける。自分を責める。どれも苦しくなります。
伝える、という選択肢があります。
言い合える関係のほうが、続きます
意見の食い違いがない関係が良い関係かというと、そうとは限りません。
大事なのは対立の有無ではなく、そのあと修復できるかです。
ぶつかっても戻れる関係のほうが、ぶつからないまま距離が開く関係より、長く続きます。
須勢理毘売と大国主は、**歌で言い合って、盃を交わしました。**それが出雲の神話の結びです。
いま、あなたに置き換えると
苦しさを我慢に変えず、言葉にしてよいのです。
飲み込んだほうが波風は立ちません。けれど、飲み込んだものは消えません。
あなたが感じていることは、感じてよいことです。
そして、伝え方は選べます。
須勢理毘売は、怒鳴ってはいません。**歌にしました。**形にして、渡したのです。
言うか言わないかの二択ではありません。どう渡すかという選択肢が、あいだにあります。
この神様が現れたとき
神託引きで須勢理毘売が出たなら、それは抱えているものを出すときという報せです。
我慢は美徳ではありません。
三度も夫を助けた女神が、嫉妬を隠しませんでした。
須勢理毘売とゆかりの深い場所
- 出雲大社/島根県出雲市 ― 大国主とともに、御向社に須勢理毘売が祀られています
- 八重垣神社/島根県松江市 ― 父・須佐之男命と櫛名田比売を祀り、縁結びで知られます
- 神魂神社/島根県松江市 ― 出雲最古級の社殿を持ち、出雲の神々を祀ります
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