神託の言葉

自分で選び、自分で帰った姫|八上比売と、退くという決断

内乃燈

内乃燈(うちのあかり)/占い師 ウチノアカリ 50代のとき、職場のパワハラ・モラハラから鬱になり、生きる希望を無くしました。 そこから、心と脳のしくみを学び直しています。 脳科学と魂の声が交差する場所で、生きづらさを抱える方へ言葉を届けています。 神託のカードでは、当てるためではなく、 あなたが自分の声を思い出すための一枚をお渡ししています。

因幡の白兎の話は、多くの方がご存じだと思います。

けれどその兎が、誰のために予言したのかは、あまり語られません。

八上比売(やかみひめ)。この物語の、もうひとりの主人公です。


八上比売とは、どんな神様か

因幡国の八上(現在の鳥取市河原町あたり)に住んでいたとされる姫です。

その美しさは、遠く出雲まで聞こえていました。

大国主が、まだ大穴牟遅と呼ばれていた頃の物語に登場します。

司るものは、選ぶこと。清らかさ。そして、退くこと。


八十神が、押しかけた

出雲の八十神(やそがみ)――大勢の兄弟たちが、こぞって八上比売に求婚しようと因幡へ向かいました。

末弟の大穴牟遅は、荷物持ちとして最後尾を歩かされます。

途中、気多の岬で、皮を剥がれて泣いている兎に出会いました。

八十神は面白半分に「海の塩水で洗い、風に当たれ」と教えます。兎はその通りにして、いっそうひどい状態になりました。

遅れて来た大穴牟遅が、真水で洗い、蒲の花粉の上に転がるよう教えます。兎の傷は癒えました。

そして兎は告げます。「八上比売は、あなたを選ぶでしょう。」


全員を、断った

因幡に着いた八十神は、次々に求婚します。

八上比売の答えは、こうでした。

「あなたがたの言うことは聞きません。大穴牟遅命に嫁ぎます。」

全員に、はっきり断りを告げたのです。

身分でも、順番でも、勢いでもなく。荷物を持たされて歩いていた末弟を選びました。

兎への振る舞いを、この姫は知っていたのでしょう。

この選択が、八十神の怒りを招き、大穴牟遅は二度殺されることになります。


そして、自分から帰った

長い年月が過ぎ、大穴牟遅は大国主となって出雲を治めていました。

八上比売は、約束通り出雲へ来ます。

けれど――正妻の須勢理毘売を、畏れました。

生まれた子を木の俣に挟んで置き、因幡へ帰っていきます。

その子は**木俣神(きまたのかみ)**と呼ばれました。

『古事記』は、それ以上を書きません。


二度、自分で決めた

この姫の物語を読み返すと、あることに気づきます。

八上比売は、二度とも自分で決めています。

八十神を断ったのも、自分。出雲を去ったのも、自分。

誰かに追い出されたのでも、争いに負けたのでもありません。畏れて、自分で帰ったと書かれています。

一度目は「選ぶ」決断。二度目は「退く」決断。

どちらも、同じ人がしたことです。


「退く」を、脳の側から見ると

選ぶことと、退くことは同じ働きです

「決断力がある人」と言うとき、私たちはたいてい選ぶほうを思い浮かべます。

けれど、やめる・引く・手放すことにも、同じだけの判断が要ります。

そして多くの場合、**退くほうが難しい。**すでに費やしたものが天秤に乗るからです。

八上比売は、遠い出雲まで来ていました。そこまでの道のりを捨てて帰るのは、簡単ではなかったはずです。

消耗する場所に居続けなくていい

人が消耗するかどうかには、その場でどれだけ緊張し続けるかが関わります。

強い緊張が続く環境に長くいると、心身に影響が出ます。その場を離れることは、正当な対処です。

「逃げた」と言われることがあるかもしれません。けれど、離れたほうがいい場所は、実際にあります。

決めた事実は、残ります

そしてもうひとつ。

八上比売は、**子を置いていきました。**すべてを断ち切ったわけではありません。

木俣神として、その子は残りました。繋がりは残したまま、自分は退いた。

全部か無かではなく、どこまで残してどこから引くかを決めることもできます。


いま、あなたに置き換えると

自分で選び、自分で退く。どちらも誇っていいのです。

いま、続けるか離れるかで迷っていることがあるなら。

**離れることも、あなたの決断です。**負けでも、逃げでもありません。

そして、選んだ過去を否定しなくていいのです。

八上比売が大穴牟遅を選んだことは、間違いではありませんでした。あの選択があったから、兎の予言は当たり、大国主は生まれました。

選んだことと、退いたことは、両立します。


この神様が現れたとき

神託引きで八上比売が出たなら、それは自分で決めていいときという報せです。

まわりが何と言おうと、あなたが選ぶことです。

そして、いつ引くかも、あなたが決めることです。


八上比売とゆかりの深い場所

  • 白兎神社/鳥取県鳥取市 ― 因幡の白兎の舞台。兎を祀り、縁結びで知られます
  • 賣沼神社/鳥取県鳥取市河原町 ― 八上比売を主祭神とします
  • 出雲大社/島根県出雲市 ― 大国主を祀り、木俣神も境内に祀られています

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