三十八柱を書いてきて、最後がこの神様になりました。
風です。
姿がなく、掴めず、それでいて必ず何かを動かしていくもの。
締めくくりに、これほどふさわしい神様もいないと思っています。
志那都比古神とは、どんな神様か
志那都比古神(しなつひこのかみ)。風の神です。
『古事記』は、その生まれをこう記します。
伊邪那岐と伊邪那美が国を生んだあと、朝霧を吹き払った息から生まれた、と。
息そのものが、神になりました。
名の「シナ」は、息が長く続くことを意味するとされます。
伊勢神宮の風日祈宮(かざひのみのみや)、奈良の龍田大社に祀られています。蒙古襲来のとき神風を起こしたとも語られ、風雨を鎮める神として朝廷の崇敬を受けてきました。
司るものは、風。変化。そして、払うこと。
霧を、払った
生まれの場面が、この神様のすべてを語っています。
朝霧が立ちこめていた。
視界が悪く、どちらへ進めばいいか分からない。国はできたのに、はっきり見えない。
そこで伊邪那岐が、息を吹きかけました。
霧が晴れ、景色が現れた。そしてその息が、神になった。
風の働きとは、何かを新しく作ることではありません。
すでにあるものを、見えるようにすることです。
掴めないもの
風は、目に見えません。
見えるのは、風が動かしたもののほうです。揺れる木、流れる雲、翻る布。
風そのものを見た人は、いません。
けれど、風が吹いたかどうかは、誰にでも分かります。
**姿がないのに、確実に働いている。**この神様が最後に来たことに、私は少し感じ入っています。
三十八柱の中には、姿を持たない神が何柱かいました。天之御中主神は現れてすぐ隠れ、高御産巣日神は背後で働き続けました。
そして最後が、息から生まれた風です。
「動かす」を、脳の側から見ると
止まっているものは、止まり続けます
同じ状態が続いていると、それが当たり前になります。
変えるには力が要る。けれど、**変えないことにも力は要りません。**だから止まり続けます。
このとき、私たちはしばしば「変わらないのは自分のせいだ」と考えます。
けれど、変わらないことのほうが自然なのです。それは怠慢ではなく、仕組みです。
環境が変わると、行動が変わります
そして、変えるときにいちばん確実なのは、自分を変えようとすることではありません。
場所を変える。物の位置を変える。空気を入れ替える。
行動は、意志よりも環境に強く影響されます。同じ人でも、置かれた条件が違えば違うことをします。
窓を開けることには、比喩以上の意味があります。
小さく動くと、気持ちがついてきます
そして、これは三十八柱を通して何度も出てきたことです。
やる気が出てから動くのではなく、動くとやる気が出る。
伊邪那岐は、大がかりなことをしていません。息を吹いただけです。
それで霧が晴れました。
いま、あなたに置き換えると
よどんだ空気は、自分から動かしていいのです。
誰かが変えてくれるのを待たなくて構いません。
**大きく変える必要もありません。**窓を開ける。場所を移す。ひとこと言う。
息を吹くくらいのことで、景色が変わることがあります。
そして、あなたが動かしたものは、あなたには見えないかもしれません。
風そのものは見えないからです。見えるのは、動いたもののほうです。
この神様が現れたとき
神託引きで志那都比古神が出たなら、それは滞りが動きはじめるという報せです。
いま何かが変わろうとしています。あるいは、あなたが変えられます。
霧は、払えば晴れます。
志那都比古神とゆかりの深い場所
- 龍田大社/奈良県三郷町 ― 風の神として、古くから朝廷の祈願を受けてきました
- 風日祈宮/三重県伊勢市 ― 伊勢神宮内宮の別宮。神風の伝承を伝えます
- 風宮/三重県伊勢市 ― 伊勢神宮外宮の別宮です
三十八柱、これで最後です
日本神話の三十八柱を、ひとつずつ書いてきました。
光を隠した神。荒れた神。語らない神。選ばれなかった女神。従わなかった星。そして、息から生まれた風。
どの神様にも、うまくいかなかった時間がありました。
閉じこもり、追放され、返され、殺され、負け、退き、それでも名が残っています。
神話が長く語り継がれてきたのは、たぶん完璧な話ではないからです。
そして、いまを生きている私たちのどこかに、必ずどれか一柱が重なります。
あなたに重なる一柱は、どの神様でしょうか。
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もう少し深く読み解きたい方へ
神託引きが伝えるのは「どの神様があなたのそばにいるか」までです。
その神様が、いまあなたが立っている転機に対して何を告げているのか。そこから先は、お一人おひとりの状況を伺わなければ読めません。
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