魚を全部集めた神|大綿津見と、水面の下を見るということ
見えているものが、原因とは限りません。 問題が起きているとき、私たちはたいてい目の前の波に対処します。 けれど波は、結果です。 大綿津見とは、どんな神様か 大綿津見神(おおわたつみのかみ)。伊邪那岐と伊邪那美の子で、大海を統べる神です。 娘に豊玉毘売と玉依毘売がいます。つまり、初代天皇の外祖父にあたります。 「ワタツミ」の「ワタ」は海、「ツミ」は霊威を持つものを指すとされます。海そのものの神格です。 志賀海神社(福岡市)の御祭神。全国の綿津見神社・海神社に祀られています。 司るものは、海。潮目。そして、根 ...
娘を送り出した神|大山津見と、動かないという働き
山は、動きません。 けれど、山があるから川が生まれ、雲が湧き、里が潤います。 **何もしていないように見えて、すべての前提になっている。**そういう神様の話です。 大山津見とは、どんな神様か 大山津見神(おおやまつみのかみ)。伊邪那岐と伊邪那美の子で、山々を統べる神です。 娘に木花之佐久夜比売と石長比売がいます。また、須佐之男命の妻・櫛名田比売の祖にあたる神々の父でもあり、神話のあちこちに血縁として顔を出します。 大山祇神社(愛媛県今治市・大三島)の御祭神。山の神であり、海の神でもあり、武人の守り神として ...
抜かずに収めた神|経津主と、斬るべきものの話
剣の神様なのに、斬った場面がありません。 香取神宮の御祭神、経津主(ふつぬし)。 この神様の物語を読んでいると、剣とは何のためにあるのかを考えさせられます。 経津主とは、どんな神様か 経津主神(ふつぬしのかみ)。『日本書紀』に登場する剣の神です。 名の「フツ」は、ものを断ち切るときの音を表すとされます。「フツリ」と切れる、あの音です。 『古事記』では建御雷が国譲りの主役ですが、『日本書紀』では経津主が主で、建御雷が副として描かれます。伝承によって立場が入れ替わる、興味深い神様です。 香取神宮の御祭神。鹿島 ...
もとの針を返せと言った神|火照命と、握りしめた手のこと
前回、失くした釣り針を探して海へ潜った弟の話を書きました。 今回は、その針を返せと言い続けた兄の話です。 日本神話は、たいてい勝ったほうの側から語られます。けれど負けた側にも、言い分はあります。 火照命とは、どんな神様か 火照命(ほでりのみこと)。海幸彦という呼び名で知られています。 瓊瓊杵尊と木花之佐久夜比売の子。燃えさかる産屋の中で生まれた三兄弟の長男です。 弟が火遠理命(山幸彦)。 司るものは、海の幸。誇り。そして、執着。 隼人(はやと)の祖とされ、隼人舞はこの神が溺れたときの様子を写したものだと伝 ...
釣り針を探して海へ|火遠理命と、遠回りの果てに着く場所
たった一本の釣り針を失くしただけの話です。 そこから、この神様は海の底まで行き、三年を過ごし、妻を得て、国の礎になる血筋を残しました。 探していたものと、見つけたものが、まったく違いました。 火遠理命とは、どんな神様か 火遠理命(ほおりのみこと)。山幸彦という呼び名のほうが知られているかもしれません。 瓊瓊杵尊と木花之佐久夜比売の子。燃えさかる産屋の中で生まれた三兄弟の末子です。 兄が火照命(海幸彦)。初代・神武天皇の祖父にあたります。 司るものは、山の幸。探求。そして、転機。 道具を、交換した 兄の火照 ...
見ないでと言った女神|豊玉毘売と、見せずにおく領分
隠しごとのない関係が、いちばん良い関係でしょうか。 すべてを打ち明け、すべてを見せる。それが誠実さだと、私たちはどこかで思っています。 この女神の話は、そこに静かな問いを投げかけます。 豊玉毘売とは、どんな神様か 豊玉毘売(とよたまびめ)。海神・大綿津見の娘です。妹に玉依毘売がいます。 名の「トヨタマ」は、豊かな玉。潮を操る玉と結びつけて語られることもあります。 鵜戸神宮や豊玉姫神社に祀られ、安産と子育ての神として信仰されてきました。 司るものは、秘密。献身。そして、変身。 海の宮での出会い 山幸彦こと火 ...
祭りを思いついた神|思金神と、順序で解ける問題の話
閉じた扉を前にして、神々は困り果てていました。 太陽が隠れ、世界は闇。作物は実らず、災いが次々に起こる。 そこで一柱の神が、祭りをしようと言い出しました。 ——正気の提案には、聞こえなかったはずです。 思金神とは、どんな神様か 思金神(おもいかねのかみ)。高御産巣日神の子とされます。 名の「オモイカネ」は、多くの思慮を兼ね備えるという意味だといわれます。八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)とも呼ばれ、この「八意」も、いくつもの考えを併せ持つことを指します。 秩父神社や戸隠神社の御祭神。学業や知恵の神と ...
一瞬をつかんだ神|天之手力男と、緩みはじめた岩の話
怪力の神様と聞くと、力ずくで押し開いた姿を思い浮かべます。 けれどこの神様がしたのは、それではありませんでした。 **待っていて、開いた瞬間に手を伸ばした。**それだけです。 天之手力男とは、どんな神様か 天之手力男(あめのたぢからお)。名は天の、手の力の強い男を意味します。 天岩戸の場面にだけ登場する、いわば一場面の神様です。それでも記憶に残るのは、その一瞬が決定的だったからでしょう。 戸隠神社の御祭神。信濃の戸隠山は、この神が投げた岩戸が飛来してできたと伝わります。 司るものは、剛力。後押し。そして、 ...
逃げた先で神になった|建御名方と、負けた場所から築くこと
負けた話が、そのまま残っている神様がいます。 しかも、逃げた先で祀られている。 建御名方(たけみなかた)。諏訪大社の神様です。 建御名方とは、どんな神様か 大国主の子。事代主の弟にあたります。 名の「ミナカタ」は「水潟」に通じるとも、宗像(むなかた)に由来するとも言われますが、はっきりしません。 司るものは、抵抗。再起。そして、守り。 諏訪大社の御祭神として、軍神・農耕神・狩猟神と、幅広く信仰されてきました。 ひとりだけ、抵抗した 国譲りの場面です。 建御雷が稲佐の浜に降り立ち、剣の切先に座して迫りました ...
現れて、すぐ隠れた神|天之御中主神と、何もしないという働き
『古事記』の一行目に、この神様は登場します。 天地初発(あめつちのはじめ)のとき、高天原に成りませる神の名は、天之御中主神。 日本神話の、いちばん最初の神様です。 そして、**そのすぐあとに姿を隠します。**以後、ほとんど出てきません。 天之御中主神とは、どんな神様か 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)。名は天の中央にいる主を意味します。 高御産巣日神、神産巣日神とともに造化三神と呼ばれ、その筆頭です。 『古事記』は、この三柱について「独神(ひとりがみ)となりまして、身を隠したまひき」と記します。 伴 ...









